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認知症の方の世界について(1)「時間」

痴呆という言葉(病名)が、その疾患の症状に適した病名ではなく、差別や偏見を生みだしている事実があるという事などから、「認知症」呼ばれる様になったのが2004年以降ですから、10年以上が経過しました。この間、医療においては研究が進み、認知症の状態の理解だとか治療方法においても色々な変化がありました。しかし、本質をみてみると、単に呼び方を認知症と変えたからと言って何かが変わるわけではないと言えます。結局どんな言葉を使ったとしても、周りの者がその疾患に抱いている思いというものが反映されているのではないでしょうか。

子供に逆戻りする
認知症になると、赤ちゃんに戻っていくんだと言われる事があります。この表現はあまり適切ではないかもしれません。なぜなら「あなたは赤ちゃん戻りをしていますね」と言われて嬉しい大人がいるでしょうか。恐らく、誰もいないでしょう。自分が言われて嬉しくない事を他人に言ってしまうのは、あまり賢明ではありません。介護の世界においては、自分だったらどうして欲しいのか…という事を考えてケアにあたる事が大切ですから、余計にそう言えます。では、なぜこう言われてしまうのかを考えてみましょう。

認知症の周辺症状の進行
一般的に、認知症になると記憶に障害が出ると言われますが、これには時間・言葉・行動の変化が関係しています。例えば時間について言えば、30分前に食べた食事は思い出せないが、働いていた頃の記憶、そして子供の頃の記憶は鮮明に残っている様になります。また、自分がいる場所が把握できなくなり、相手が誰だかも分からなくなります。これらは、密接につながっているものです。ですからまずは、時間についてどの様に変化していくのかを考えてみましょう。

時間感覚の変容
順番で言えば、最初に今現在の時間が分からなくなりますが、これには未来の時間を取り込む事も関係しています。例えば日常生活の中で、今の時間を気にする時にこれから起こる出来事を考えていないでしょうか。お昼ご飯を食べるとします。午後の2時や3時にお昼を食べてしまうと、いつも午後7時に夕飯を食べているなら、それまでの時間があまりなくなってしまうので、出来れば午後0時か1時に食べたいですよね。意識してはいませんが、先の事まで考えて今やる事を、これからやる事を決める習慣がついているはずです。この様に、未来の事まで考えて「今」があるのですね。これが認知症になると段々と把握が出来なくなり、過去の時間と今の時間が入り混じってきます。最終的には完全に過去の時間に遡ります。これを周りからみていると「赤ちゃんに戻っている」と言われるわけです。

子供の、時間への理解
当然ながら乳幼児は、時間の概念が分かりません。過去、現在、未来という流れが分かるのは、一般的に小学校に入る頃と言われています。この中でも、最初に分かるのは未来です。あと3回(3日)寝ると、待ちに待ったお正月だよ~、という感じです。次に、今が分かり、最後に過去が分かるのです。ですから、認知症の方は、一番苦労して覚えた「過去」という感覚を最後まで覚えているんですよね。これは決して赤ちゃん戻りでは無い、と言えるのではないでしょうか。
実は、時間を理解するには非常に高度な知恵を使っているそうです。「今、●月●日の午前11時だね」と理解するには、一日が24時間という事を理解していなければなりません。となると、24時間で出来上がっている一日が7日で一週間であり、一週間が4回とちょっとで一月であり、そして12ヶ月が一年である、という様に、時間を理解するには「暦」を理解しなければならない、と言われています。この様な事を理解できる「認知力」が、病気が原因で低下してしまうのですから、時間概念が失われていってしまう事もうなづけます。

この様に認知症の方の時間概念というのは進んでいるのですから、夕方になると家に帰りたくなる人にいくら時間を説明してとどまってもらおうとしても難しいのですね。介護を行う側がこれを理解していれば、時間を持ちだして相手の混乱を招く事を防げるはずです。



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