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認知症の方の世界について(3)「行動」

認知症の方の状態を把握するのに、「周辺症状」と呼ばれるものがあります。
・幻聴(本当は聞こえない音などが聞こえること)
・幻視(本当は見えていないものが見えること)
・妄想(通常では起こり得ない事を、本人は確信していて、訂正がきかないこと)
・昼夜逆転(昼に寝て夜に起きていること)
・暴言(乱暴な言葉)
・暴行(暴力を伴う様な乱暴な行動)
・介護への抵抗(介護に対して拒否し、介護させてもらえない状態)
・徘徊(目的もなく歩きまわること)
・火の不始末(料理での火の消し忘れなど)
・不潔行為(大便を壁などに塗りつける様な行為)
・異食行動(食べられない物であっても口に入れて食べようとしてしまう行動)
・性的問題行動(異性に対し卑猥な言動をする行為)
などが一般的です。

これに対して、「中核症状」と呼ばれるものもあります。これは、記憶する機能が衰えてしまう記憶障害とか、時間や人や場所が分からなくなる見当識障害、また計算が出来なくなったり判断する能力が衰えてしまう認知機能障害の事ですが、この中核症状は、程度の違いこそありますが認知症の方全員に現れるものです。これに比べて前述の周辺症状は、人によって現れる症状が違うのが特徴です。介護認定調査においても、認知症の症状がある方の場合はこの症状について主治医が意見書の中で状態を記す様になっています。この様に、認知症の方は、何かしらの行動の変化が現れてきます。

したくてしている訳ではない
認知症の方が何らかの周辺症状をみせる場合、当然ながら、その方がやりたくてやっている訳ではありません。一般的に言われるのが「徘徊」。目的もなく歩きまわる事を指しますが、例えばあなたが、トイレに行きたくなったとしましょう。でも周りには、同じ様なドアばかりでどこがトイレなのか全く分かりません。トイレの表示が出ていても、腰が曲がってきた高齢者がすぐに見える所に出ている訳ではありません。では、どうしますか?トイレに行きたいからトイレを探しますよね。でも見つかりません。焦ります。人の言うことなんて耳に入らなくなります。漏らしたくありませんから。しかも、「おしっこに行きたい」と言える人なら良いですが、もしかして少し下着の漏らしてしまっている場合、一般的にはあまり他人に言いたくないですよね。ですから、何か用事があるのか聞かれても、言えません。歩きまわります。そのうち、間に合わずに漏れてしまいます。自分はなんでこんな風なんだろう…と、自己嫌悪に陥ります。そして、自尊心を失っていきます。自分でやりたくてやっている訳ではないのに、悪循環でしかありません。これを「徘徊」と呼べるでしょうか。

認知症の方の自尊心は大切
こんな話があります。大学教授まで務めた男性がいましたが、若年性のアルツハイマーと診断されました。配偶者が面倒をみていたある日、夫がトイレに行きしばらく戻ってこないので、おかしいなぁと思った妻がトイレに行ってみると、衣類から何から大便だらけで、壁にまで大便を塗りたくってありました。妻は、お風呂に連れてきて身体を洗い、一言「こんな事じゃあオムツをしなきゃいけなくなっちゃいますね」。夫は、妻の頬を平手打ちしました…。
原因は何でしょうか。男性は、仕事柄きちんとした格好をする事が多かったので、昼間は毎日、スラックスにベルト、そしてシャツやポロシャツという姿でした。その日、便意を催してトイレに行った男性は、急にベルトの外し方が分からなくなってしまいました。妻に助けを求める知恵が働きません。どんなに外そうとしても時間だけが過ぎるだけ…。そして、便失禁。途方に暮れる男性。下着の中に手を入れ、便を確認するもどうして良いか分からず状態…。そんな時に、妻がトイレに訪れたのです。挙句の果てに妻の一言。ここで怒りが爆発します。さらに、自分には生きる価値なんかない、と、その後も自尊心の崩壊が拍車をかけるのです。
認知症の方は、ただでさえ今までの様な自分との違いに嘆き、苦しんでいます。誰も分かってくれない…そんな状況が、更なる症状の悪化を招いていくのです。

ここに、認知症の方には寄りそう介護が必要だ、という結論があります。行動を起こすには、理由があるのです。ただ、それを表現出来ないだけであって、自分で表現出来なくても分かってくれる人が傍にいれば、その方は、自尊心を保って生活を続けていく事が出来るのです。



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