介護事故の中で最も多いのが転倒事故です。移動を行う事は、介護ケアの場面だけで無く、日常生活では当たり前の事です。高齢者は、加齢による生理的老化のために、運動能力や体性感覚、平衡感覚だけでなく注意力などの低下が顕著になることから、移動能力に支障が生じるようになります。さらに病的老化のために疾病、障害が見られるようになり移動能力に著しい障害が見られるようになります。
移動能力に支障が見られる高齢者が、能力に応じた自立した日常生活を送るためには、移動に対する介護ケアの提供が必須となります。移動の介護ケアには、利用者の移動能力に応じて、見守りから車いすの移動まで、さまざまな介護ケアの提供方法があります。介護ケアを提供する事により、移動に対する介護ケアの提供方法それぞれに、介護ケアに伴うリスクが生じることになります。
介護ケアの環境が持つリスクとしては、床の段差、床の材質、手すりの設置場所、設置位置や形状、移動に必要な室内の明るさやなどの介護ケアの環境が持つリスクや利用者の持つ移動能力のリスクがあります。動線上に障害となるものや転倒の原因となるものがあること、廊下や居室などが濡れて滑りやすくなっていることなどがあります。
利用者の持つリスクは、加齢に伴う老化による移動能力の支障やADLの低下などがあります。利用者の持つリスクは、日常生活のなかで介護ケアの提供や介護ケアの環境とのかかわりで変化します。
提供者の持つリスクは、介護ケアの提供によって生じます。利用者の持つリスクと関連し合ってリスクの状態は変化して行きます。
転倒事故にかかわるリスクの対応は、介護ケアの環境が持つリスクについては、床や手すり、照明などは、根本解決には施設の設備の整備をする事になります。動線上の障害物などの移動の障害となるものは、発見した場合にはすぐに除去したり安全の確保をすることになります。
利用者の持つリスクについては、利用者の移動能力やADLの維持・改善を目指す日常的な介護予防、重度化防止の取り組みが必要となります。
介護ケアの提供者が持つリスクについては、介護サービス計画(タイムスケジュール)と介護手順の作成に加えて、利用者の心身の状態や服薬などの変化、利用者に適切な歩行補助用具の選択と利用方法、移動に必要とされる介護ケアを知ることで、利用者のリスクの変化に気づくことが可能になると考えられます。介護ケアを提供する職員が利用者についての情報を共有して、個別性の高い介護ケアの提供への取り組みを行う事で、移動についての利用者に添う介護ケアを行う事になります。