味覚の変化、低下は老化だけでなくいろいろな原因があります

味覚の基本は甘味・塩味・酸味・苦味・旨味の５味です

ヒトの感覚は、視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚という５つの感覚で成り立っているとされています。五感のうちで味覚は嗅覚とともに物質から化学的刺激を受ける事によって反応する感覚で、味覚は液体中の化学物質に味蕾が反応することで、臭覚は空気中の化学物質に鼻腔内の嗅覚器が反応する事で生じます。

味覚は甘い、塩っぱい、酸っぱい、苦いとうま味とを加えた５味を基本としますが、うま味と言うのは一言で表せない味だと思います。生まれたばかりの赤ちゃんには、甘い、塩っぱい、旨いという感覚が備わっていることがわかっています。

味覚は舌にある味蕾という感覚器官が反応する事によって脳に刺激情報が伝達されて得られるもので、脳は単に味を感じるだけで無く、脳内の味覚や情動を司る場所で味の質や強さ、食べ物の認知、食べ物に対する情動などの反応を得ています。

味蕾は液体にだけ反応するという特性をもっていますので、食べ物は液状となっているものか咀嚼によって味成分が唾液に浸出して混ぜ合わされた状態で無ければ感じることが出来ません。確かに固形の食べ物で水分の少ないものでは、パサパサした食感は得られるものの味は感じにくく、よく噛んで咀嚼しているうちに味が出てくるということがあります。

老化によって味覚は変化や低下して行きます

味覚は加齢によって甘い、塩っぱい、酸っぱい、辛いと感じる濃さ強さ（閾値）が大きくなります。特に甘さと塩っぱさの閾値が高くなることがわかっていて、高齢者が若年者に比べてとても甘いもの塩っぱいものを好む原因となっています。これは老化によって味蕾や味細胞の減少だけでなく味覚にかかわる機能全体が低下することによると言われています。

味覚の変化や低下は老化だけでなく、老化との関連が強い疾病やそれに伴う薬物の服用、その他にも食べ物の好みの変化、唾液量の減少や歯、口腔内の衛生状態の不良などが原因として考えられます。薬物の服用で生じる副作用による味覚障害や歯、口腔内の衛生状態の不良が高齢者の味覚の変化や低下に大きな影響を及ぼしていると考えられます。

味覚障害や味覚の変化、低下にどのように対応すればよいでしょうか

味覚障害は、高齢者の場合は薬剤の使用による副作用がその主要原因の一つとなっています。降圧剤、利尿剤、抗潰瘍剤、２５０種類以上の薬剤に味覚障害の副作用を引き起こす可能性があるとされています。その中でも亜鉛代謝や唾液分泌の低下が味覚障害の大きな原因となっている事がわかっています。

亜鉛は必須微量元素の一つで身体の代謝機能に必要な物質です。亜鉛が不足すると新陳代謝が悪くなり、味覚の受容器である味蕾のターンオーバーが悪くなることから味覚障害が起きてしまいます。味蕾も皮膚と同じ外胚葉性の器官で再生されるターンオーバーの周期はおよそ１か月となっています。

亜鉛不足を予防するには、抹茶、緑茶煎茶（一番茶）、玄米茶、ココア、牡蠣、数の子、煮干、てんぐさ寒天、きな粉、カシューナッツ、いりアーモンド、いりゴマ、麩などの食材を積極的に摂りましょう。また、味覚障害と診断されたときには亜鉛剤の処方を受けることになるでしょう。

亜鉛不足による味覚障害は、高齢者だけの問題でなくなっており、無理なダイエット、インスタント食品、コンビニ弁当、ファーストフードなどにより若年者にも数多く見られるようになっています。味覚は経験の積み重ねによって得られたり好みとなって固定して行くものですので、若年者の頃の食生活が高齢者となった時の健康を阻害する原因になり得る事を知っておかなくてはなりません。

高齢者の味覚の変化、低下に大きな影響を及ぼしている歯、口腔内の衛生状態の不良については、歯科衛生士による口腔清掃により味覚の閾値が低くなったという報告があり、口腔ケアの大切さが健康のあらゆる部分に影響するという事がわかります。